私好みの新刊 201812

『石は なにから できている?』 

西村寿雄/文 武田晋一/写真 ボコヤマクリタ/構成 岩崎書店

 今回は著者からの編集の意図を書いた。まだこの本を手にとっておられない方への参考に供したい。

この本は「今地球に存在する石の意味を小さな子どもたちに感動的に伝えたい」という著者の長年

の夢を形に表した本である。本を開くと,最初に広い月面の写真が出る。カラー写真なのに一面の灰

色世界だ。続いて出てくる月の石も地味で灰色の石。次はパッと場面が変わって緑の森と河原の写真

が出る。舞台は地球に転じる。カラフルな地球の石たちが拡大写真で次々と登場する。地球はカラフ

ルな石の世界だ。キラキラ光る粒の石もある。キラキラしない粒の石もある。粒の見えないつるつる

した石もある。これら地球石の出来方にはいくつかの要因がある。それらの要因を作っている元は「水」

であることは案外知られていない。地球のさまざまな石は,水の惑星地球だからこそ出来た石なのだ。

その謎にたどりつけるように本編でも簡単な解説をくわえている。

 この本で,子どもたちにまず目を向けてほしいのは,なんと石もきれいだなということと,石も粒に

目をつけると石の違いが見えてきそうだと言うこと,そして,地球にだけいろんなカラフルな石がある

ということである。本のタイトルは「石って なにから できている?」になっている。その問いに直

接には答えていないが,それぞれの子どもさんにとりあえずは自問自答してもらえればいい。もちろん,

どうしてもその謎が気になる高学年の子どもさんなどには,「解説」の項で説明はしている。しかし,

ダイナミックな地球内部の話などすんなりと理解できないこともあると思われる。その場合は未来の勉

強につなげてほしい。

 この本のもう一つの柱は「粒」にある。「粒」から鉱物の結晶につながり原子の世界につながる。当然

のことながら石も原子でできている。このことに目を向ければ,石ははるか宇宙ともつながってくる。

夢の大きな話である。まずは,石の美しさに目を向けてもらえればいい。いかがでしょう。

                               2018,10  1,600

『カタツムリはどこにいる?』  三輪一雄/作・絵  偕成社

 この本は,テントウムシの〈新聞記者〉がカタツムリの今の様子をレポートする構成になっている。

堅苦しい解説調の文章よりもはるかに親しみやすい。小学生も十分に読んで楽しめる。ことの発端は,

ある小学生からの次の質問である。

「さいきんわたしがくらす町でカタツムリをさがしていますが、ぜんぜんみつかりません。どうして

カタツムリはいなくなったのですか?もっとカタツムリについて知りたいです。」

 本当にカタツムリは少なくなっているのだろうか。テントウムシの七星記者は取材に町に出る。

やはり町ではカタツムリは見つからない。そこで土と樹木の多い田舎へと記者は足を運ぶ。森の上から

下を見ると何か大きな動物がいる。イノシシだ。イノシシがさかんに土を掘り返している。「カタツムリ

をさがしているんだ」とイノシシの声。「タヌキやアナグマ,イタチ,リスなどもカタツムリを餌にして

いるよ」とイノシシは言う。カタツムリは野生哺乳動物の餌として今もかなり捕食されていることがわか

る。こんどはカタツムリを口にくわえているカラスに出会う。卵を産むメスにはカタツムリのカルシウム

が必要とか。地面で出会ったヘビから,八重山諸島にいるヘビはカタツムリを食べているという話を聞く。

足下に黒い虫,マイマイカブリだ。この虫は名前の通りマイマイにいつもかぶりついているオサムシだ。

体が細長く頭がちょうどカタツムリの口に入りやすくできている。ほかに,ヒメボタルやイタセイボウと

よばれているハチもカタツムリを餌にしている。生き物がカタツムリを食べている話はまだまだつきない。

小笠原のヤドカリはカタツムリの殻を家にしているとか。カタツムリは意外と多く棲息していて,自然界

の命を支えるサイクルになっていることを伝えている。三輪さんの絵も力強く見ていて楽しい。   

              2018,8刊 1,500

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